ディレットがエーテルの命を奪ったことで、マイの怒りは頂点に達し、黒水晶の封印はとけてしまった。

亡きレイナスも、こうなる予想がつかなかったわけではないだろう。


マイは自我を失い、黒水晶の力で人を憎むだけの精神状態になっている。

もし黒水晶がなかったらマイは、ディレットに対し一時的な感情で攻撃をしたとしても、すぐ我に返っていただろう。

しかし、今の彼女は、黒水晶と共にこの世を滅ぼそうとしている。


なぜ、こんなリスクを背負ってまで、魔術使いの一族は黒水晶を守り続けていたのだろうか。


やる瀬ない思いで、マイを見つめる一同。

テグレンはリンネを抱きしめながら叫んだ。

「マイ……。正気に戻っておくれ!!」

その声はマイに届くことなく、暗雲の中に悲しく消えていった。


魔術で飛び回って逃げるディレットを空中移動で追い詰めたマイは、両手を広げると、魔法の力で彼の魔術能力を奪った。

ディレットが許されないことをしたのは確かだが、さすがにこのまま黙って見ているわけにはいかない。

そう考えたフェルトは、ディレットを守るために彼を目掛けて防御魔術を放ったが、それはマイに弾かれてしまった。

「そんなっ……!」

放った青い光は、黒光りした膜であっけなく破れた。

フェルトは息をのんで、防御魔術を放った自分の右手と、消えつつある黒い膜を交互に見る。