黒水晶から放たれる攻撃を余裕でかわしていたディレットの顔にも、次第に疲れの色が出始めた。
マイは黒水晶を介して、ディレットだけではなく、周りにいる人間に見境なく電撃をくらわせるつもりだ。
未知なる黒水晶の力により完全に意識を奪われ、マイは操られている。
血色のよかったマイの肌は、だんだん青白くなっていく。
一方で、黒水晶の力は増幅していった。
「マイ……! 目を覚ましてくれ!
どうやったら争いのない世界を作れるのか、一緒に考えよう!」
イサは立ち尽くすマイに駆け寄ったが、マイの周囲に張られていた見えない球状の壁に勢いよくぶつかり、後方に跳ね飛ばされてしまう。
その壁からもおそろしいほど強力な電流が放たれているらしく、イサの体は一時的にしびれを起こした。
マイの深層心理にある意思によって放たれる、黒水晶の無差別攻撃。
フェルトは力を消耗し疲労感を覚えつつも、城の兵士やテグレン、リンネなど、ディレット以外の人間すべてに防御魔術を展開した。
フェルトの放つパステルカラーの水色が、背景となった闇の中で幻想的に光っている。
「どうして……マイがそんな運命を背負わなきゃいけなかったんだ……。
魔法使いばかりが、犠牲になってる……!」
イサはやる瀬なさで涙を流し、地に伏せたままレイルを見やった。
「……魔法使いなら誰だって良かったわけじゃないんだ。
ルミフォンド様は、感情の起伏がゆるく、穏やかな方だった。
それに、生まれながらに黒水晶の能力を上回る高い魔法能力を持っていた。
人に怒りを向ける可能性が少ないルミフォンド様に、黒水晶の封印をする。
合理的な判断に見えるけど、そう決めたレイナス様はとてもつらかったはずだ。
魔法使いも人間と同じで感情のある生き物なんだから、ルミフォンド様が怒らない保証なんて、どこにもないのにさ……。
ルミフォンド様は、魔法使いに生まれたゆえに魔法使いの苦しみを背負わされただけだったんだな……。
黒水晶をルミフォンド様に封印することがいちばん安全で正しいと言われていたのに……。
今は、それすら分からない。
何が正しくて、何が間違いなんだろうな……」
これまでのレイルらしくなく、彼は弱腰にそう告げた。