フェルトは深々と頭を下げ、イサに言った。

「私がルナ様の行いを目にしてしまったことで、それまでためらわれていた、ルミフォンド様に黒水晶を封印する儀式がとり行われることになってしまいました。

魔法使いを支えるトルコ国の人間として、私はルナ様の裏切り行為をレイナス様に報告しないわけにはいきませんでしたが、こうなってしまったことに罪悪感もありました。


ルナ様は、黒水晶を盗もうとした理由について、こう語ってみえました。

黒水晶を用いて、まずは自分の病気を治し、戦のない世の中を夢見ている夫の願いを叶えてあげたかった、と……。

ルナ様は、悪意を抱いて黒水晶を盗もうとしたわけではない。

当時子供だった私にも、それは理解できました。


ただ、レイナス様はけじめのあるしっかりしたお方。

一歩間違えば世界を混乱に陥(おとしい)れていたかもしれないルナ様の行動を許さず、病弱の彼女に魔法薬を与えなかったのです……。


謝ってすむことではないのは分かっていますが……。

私にも大きな責任があります。申し訳ありません……」

イサが口を開く前に、レイルが興奮気味に口を挟んだ。

「フェルトさんは悪くないっすよ!

それが役目だったんだから……!」

レイルはイサに向き直り、言葉を継ぐ。

「フェルトさんは、ルミフォンド様がマイという名前に変わり一人暮らしをするようになってからも彼女を見守り続け、そのかたわら、黒水晶が暴走した場合の解決策を探して世界中を旅していたんだ!

フェルトさんにはトルコ国を復活させるという夢があるのに、それよりも黒水晶についての研究に力と時間を注いでいたんだ……!

フェルトさんは、常に最悪の状況を意識して動いてたんだ!」

目を張ってレイルを見返すイサ。

フェルトはイサとレイルの間に割り込み、

「レイル、ありがとう。

でも、私はそれを成し遂げられなかったので、全ては無意味ですよ。

世界が危ない……!」