テグレンについてきたマイとリンネ。
彼女達も、テグレンの背後で息をのむ。
イサとヴォルグレイト。
両者の間には、不穏な空気が漂っている……。
テグレンは思い詰めた顔つきで、仕方なさげにイサの腕を離した。
ヴォルグレイトは、カーティスの死に動揺する内面を隠し、イサに言った。
「私がカーティスを危めた、だと……?
お前が、どこでどのような話を聞いたのか知らないが、カーティスを危めたのは私ではない。
今まで、執務室にいたのだからな」
「そんなの、信じられません!
あなたはまだ、私に過去を隠し続けるおつもりですか!?
ガーデット帝国の、この、血塗られた歴史を……!」
「……」
ピリッとした空気が広い空間を包む。
『血塗られた歴史』
イサの放ったセリフに、その場の誰もが絶句した。
ヴォルグレイトは、歴史に関して触れることはなく、
「ほう……。だから何だと言う?
書庫から、昔の下らぬ童話でも探し出してきたのか?
ガーデット帝国は、鉱石が取れ、産業が発達している土地。
世界中で文化的な暮らしをする民の集まり。
貧しい他国に嫉まれ、あらぬ噂を流されたこともあるからな。
お前も知っているだろう?
この国が、過去に何度も他国の襲撃を受けてきたこと……。
国民を守るため、
領土を守るため、
不本意な戦争を繰り返してきたということを……」