「エーテルは、その杖のこと何かわかるか?」
イサは尋ねる。
「……わからない」とだけ答え、エーテルは目を伏せた。
「お待たせ。薬は飲み終わったよ。
薬なのに苦くなかったのは、甘い果実を使ってるおかげだったんだね」
テグレンは陽気に笑っている。
イサとエーテルは一瞬黙ったが、
「よし、じゃあ、いこう」
と、先頭切って歩きだす。
マイは、イサとエーテルの考え込むようなそぶりは気にせず脳天気な様子だ。
「この杖、そんなにすごい物なんだね。
持ってて当たり前の物だったし、雑に扱ってたよ。
大事にしなきゃ」
「そうだよ。大事にしなくちゃ。
じゃないと、私が奪ってしまうかもしれないよ」
マイの言葉に応えるような、男性の声。
「誰だい?!」
テグレンはその場で両足に力を入れ、正体不明の影に向けて叫んだ。
マイは不安そうに辺りを見回す。
イサは剣を抜き、エーテルは魔術で森の木の葉を集めた。
「誰だ」
イサは低く鋭利な声色で、その声の主の気配を探す。
「相手の攻撃をはじくシールドを張った」
エーテルは冷静な面持ちでイサに伝える。
エーテルの集めた木の葉が、マイたちの周囲を取り囲んでいた。
「相手は木属性の能力に弱いのか?」
イサはエーテルに訊(き)いた。
「ええ。相手は水のオーラを放っているから、間違いない」
「……やっぱり、楽をしていては奪えないようだな」
若い青年のように澄んだ声の持ち主は、そう言うだけで姿を現そうとはしない。
「一体何なの? 誰? この杖は私のだよ!!」
マイは見えない敵に強く言った。
「ほお。気が強い。さすが魔女。そのくらいでなきゃね」
見知らぬ敵の仕業(しわざ)なのか、洪水になりそうな大雨がマイ達目がけて降り注ぐ。
「あれ? こんなひどい雨なのに、全然濡れないね」
テグレンが不思議そうに手を天にかざす。
「大丈夫。木の術を使って防いでいるから」
と、エーテルが言った。
彼女の姿は微動だにしないものの、固く目をつぶり、額にはガラスの粒のような汗がにじんでいる。