テグレン宅があるオリオン街を抜け、マイたち一行は、次の街に抜けるための森を歩いていた。

魔術を使う必要がないと判断したエーテルは姿を現し、イサと並んで歩を進めている。

その後ろに、マイとテグレンが続いた。

木々が揺れる気配の中に、鳥のはばたく音や鳴き声が響いている。

「この森は、普段からけっこう来てたよ」

マイは見知った森を散歩する感覚でいた。

「この森はいい木の実がたくさんあるからね。

エーテルは出会った頃より、心なしかイキイキしてないかい?」

テグレンはエーテルの背中に言った。

エーテルは歩きながら半身だけでテグレンの方を振り向き、

「森は、私の魔術を支える木の精霊たちの住家だから。

こうして通り過ぎるだけで、エネルギーをくれるの」

「そうなのかい。

魔術師ってのはエコなんだね」

「そうね」

楽観的な発想をするテグレンに、エーテルも柔らかい笑みを返す。

「エコっていうなら、魔女もそうだよ。

これで薬だって作っちゃうんだからっ」

マイは背中に掛けていた杖を右手に持ち、それを真上にかかげた。

ドサッという音と共に、たくさんの木の実がマイたちの足元に落ちてくる。

イサとテグレンが目を見張っていると、

「ほらっ」

マイはそれらの上に白い小麦粉に似た魔法の粉をふりかける。

もぎ取られた果物は砂糖の固まりが崩れたかのように、果汁色の粉の山となる。

魔法薬の完成だ。

「そんな粉、どこから出したんだい?」

「ナイショっ。

はい、テグレン、飲んで」

マイは、出来立ての魔法薬と、どこから出してきたのか分からない湧き水の入った小ビンをテグレンに渡した。

「そろそろ足の薬が切れる時間でしょ」

「そうだったね。ありがとよ。

こんなふうに、森でも薬を作れるんだね。知らなかったよ」

テグレンは飲むのがもったいなさそうに、手のひらに広げたた薬を見つめる。

「魔女が薬を作るというのは聞いたことがあるけど、作る瞬間は神秘的だな」

イサも驚いている。

エーテルはマイの杖に手を置き、

「微量だけど、この杖からは木の波動を感じる。

マイが薬を作れる理屈に関係してると思う」

と、自分流の解説をした。

「木の波動っ!?

そうなんだっ。全然気づかなかったよ」

マイは初めて知った事実にあわてつつ、杖をしまう。