イサはふわっと表情を緩め、

「よかった。城の雰囲気に緊張して気疲れしているんじゃないかって、心配だった」

と、暖かい声でつぶやいた。

マイはその言葉とイサの表情にドキッとしてしまう。

「マイ、顔が赤いけど、大丈夫か?

旅の疲れで熱が出たんじゃ……」

イサはそう言いマイの額に手を当てようとしたが、マイはその手から逃れるように身を離すと、

「さっきお風呂入ったばかりだから、まだほてってるんだよ」

「そっか。でももし、不便なことがあったら何でも言ってくれ。

執事も、大抵のことはしてくれるから」

「ありがとう……」

イサは瞳を揺らし、

「ダンス、マイと一緒に踊りたかったな……。

他の女性とじゃなくて」

“えっ??

それ、どういう…?”

マイは動揺したが、それをすぐに打ち消した。

「イサは王子様なんだから、そういうのは仕方ないんでしょ?」

「そうだな。俺、何言ってんだろ……。

疲れてるのかな」

そう言い、イサは扉の方に歩いていく。

その横顔はしばし寂しげだったが、彼はすぐに凜(りん)とした表情を取り戻す。

「じゃあ、もう行くな。

マイも、ゆっくり休めよ。

おやすみ」

「おやすみ」

マイは手を振り、イサを見送る。

たった一枚の扉が、幾重にも重なる壁のように感じた。