カーティスから再び通達が入ったのだと思い込んだイサは、目をこらして、紡がれる文字に目をやる。
だが、その通達は、カーティスからのものではなかった。
《イサ。ヴォルグレイトだ。
いま、カーティスから通達が入っただろう?
……カーティスは、お前の立場を揺るがすような発言をしたみたいだが、悪気はなかったと謝っている。
カーティスには、剣術指南だけでなく、最近では城の兵士達の管理も任せているし、それに加えて、世界の異変に関する原因を調査させていた。
そのせいで、カーティスも疲れていたのだろうな。
さきほどの通達で、あらぬことを口にしていたようだが……。
お前は自分の立場をわきまえ、妙な情報に左右されることなく、ガーデット帝国を目指してくれ。
マイ様やエーテル様が城へ着いたら、各国の偉人を呼んで盛大なパーティーを行おう。
イサが、護衛という最重要任務を終えたお祝いとしてな。
久しぶりに、お前の顔を見られるのを楽しみにしている。》
胸騒ぎがする。
イサはそれを紛らわすように、深呼吸をした。
カーティスの通達を無視できないが、王子として、カーティスよりヴォルグレイトの言葉を重視しなくてはならない。
それが、生まれながらの掟(おきて)……。
カーティスの言葉は気がかりだったが、イサはヴォルグレイトの指示のまま、ガーデット帝国を目指すしかなかった。
そういう複雑な状況を悟られないよう、イサはマイ達に対し、普段通りに振る舞うよう努めた。
テグレンだけは、イサとエーテルの変化に気がついていたが、口には出さなかった。
“二人とも、立場上いろいろと背負わなければならないものがあるんだろうねえ……”
それが、テグレンなりの理解だった。