フェルトとレイルは、今すぐにでもルーンティア共和国を訪ねたい気持ちだったが、もう、夜は深い。
翌朝、ルーンティア共和国の城前で、国王の会見が行われる。
二人は、その際に国王に話をしようと決めた。
――――同じ頃、通りすがった村の宿で休んでいたイサの元に、国からの通達が入った。
みんなを室内に残し、イサはベランダに出た。
《イサ、私だ。ヴォルグレイトだ。
たった今、我が国をおびやかそうとする者の存在を確認した。
よって、今宵(こよい)より、ガーデッド帝国の警備を強化する。
おそらく、我が国が魔法使いの護衛をしていることを知った何者かが、それを良く思っていないのかもしれぬ。
お前達も、周りの人間にマイ殿が魔法使いだということを悟られぬよう、注意してくれ。
そして、もうひとつ。
今までは何も指示していなかったが、今後、護衛の任務のことは他人に口外せぬように。必ずだ。
マイ殿の命をお守りするのが、我が国の役割であり、イサの使命だ。》
イサはそれに対し了解の返事をすると、ためらいがちにマイを呼んだ。
「マイ……。勝手なことを言って申し訳ないが、これから城に着くまで、魔法は一切使わないでほしい。
明日からも魔法の訓練をさせてあげたかったんだけど、本当にごめん……」
「突然、どうしたの?」
マイは戸惑いがちに訊く。
なるべくマイに不安を与えないよう、イサは口調に気をつけ、
「マイの護衛をしていることや、マイが魔法使いだということを周りの人に知られると、マイに危害を加えられる危険性が高くなったんだ……。
ガーデッド帝国も世界の動きに不穏なものを感じ、今夜から国の警備を強化したらしい」
イサの話に、マイは黙ってうなずくしかなかった。
やはり、どこにいても、自分の存在は世界を揺るがしてしまう……。
マイが住んでいた地域を除いて、世間ではもう「魔法使い」という存在は夢物語として語り継がれているだけ。
どんな不可能も可能にしてしまう魔法の存在を信じる者は、もはやほとんどいない……。