フェルトは真摯(しんし)に尋ねた。
「まず、あなたの正体を聞かせてください」
「我は、…、…、…………国に、雇われた…。
……うぐっ!!」
ローアックスは両手で首を押さえ、苦しそうな表情でベッドから床に転がり落ちた。
「何なんだ、このオーラは!」
レイルは、もがき苦しむローアックスに寄り添う。
彼の周囲には、魔術の使い手にしか見ることのできない、薄暗い気が漂っていた。
フェルトはローアックスの背中をさすり、今の時点で分かったことを口にした。
「ローアックスさんは、どこかの国に雇われてエーテルを襲った様ですね。
それだけではありません。
ローアックスさんが自分にかけられた魔術のことを他者に話そうとすると、こうして命を吸い取られる仕組みになっていた。
だからこそ、ローアックスさんは自分のことを話したがらなかった。
雇い主は、ローアックスさんの裏切りを防ぐためにこのような呪いをかけたんでしょう……」
フェルトが話し終えると同時に、ローアックスは緑色の粒子となり姿を消した。
「死んだ……?」
レイルはローアックスの居た場所を凝視する。
「いえ、死んだのではありません。
彼は、“初めから”屍(しかばね)だったのですよ」
「えっ!? ウソ!
今のが死体??」
レイルは青ざめる。
どう見ても、ローアックスは生きた人間にしか見えなかった。
自然の神のエネルギーは、最近になって退化している。
フェルトは深刻な顔で説明した。
「昔読んだ魔術書内の小説に、こんなことが書いてありました。
自然の神のエネルギーを“とある禁断魔術”で奪い取る方法がある。
奪い取った莫大なエネルギーを元に、亡くなった人間の肉体をよみがえらせ、その体を意のままに操ることができる、と。
フィクションにしては生々しい内容だったので、今でも鮮明に記憶しています」
「そ、そんなことができるのは……!」
レイルは息をのむ。
「ええ。トルコ国には伝わっていない禁断魔術。
だとすれば……。ルーンティア共和国の王室に代々伝わる禁断魔術と考えるのが妥当です。
ローアックスさんは、ルーンティアに操られていた可能性が高い。
さっそく調べましょう」
レイルは強くうなずいた。