ただでさえ、フェルトは正体や身元不明の怪しい魔術師だ。

彼にローアックスへのトドメを邪魔され、イサは後味が悪くなる。

マイはやっと出た声で、

「ローアックスは、フェルトさんの仲間……?」

事の流れにエーテルだけは動揺することなく、さきほど失いかけていた冷静さを取り戻していた。


ローアックスに言われた事と、以前フェルトに言われた事。

イサは彼らの言葉をリンクさせた。

彼らは、イサの立場を馬鹿にしていた。

フェルトは、「ガーデット帝国の犬」「考えが浅い王子」だと言い、ローアックスは、「国の歴史を知らない愚(おろ)かな王子」だと言った……。

もし、ローアックスがあの言葉をガーデット帝国の領地で言っていたら、確実に反逆者として処刑されていた。

考えを巡らせるイサに、マイは近寄ると、

「今のこと、イサの国に報告しなくていいの?」

「……ああ! そうだな」

マイの声で意識を引き戻されたイサは、いつもの落ち着きを取り戻し、国への通信を行った。

今の出来事を、全て報告する。

ヴォルグレイトからの返事はすぐに届いた。

《ローアックスが、そのような事を……。

歴史に関してだが、そのように言われる心当たりは全くない。

ローアックスの身元は、すぐに調べさせる。

そんなことは気にせず、イサはガーデット帝国の王子として誇りを持ち、歴史を信じ、これまで通り任務を遂行(すいこう)してくれ。

無事を祈る》

ヴォルグレイトの返事に了解し、イサは剣をしまった。

“父さんはああ言ってたけど……。

何なんだ。この、胸に引っかかる感じは……”

ヴォルグレイトとの通信を終えても、イサは釈然(しゃくぜん)としなかった……。