イサは倒れたローアックスの体にまたがり、剣の刃先をローアックスの首元に近付けた。
「なぜお前はエーテルを狙う。
ルーンティア共和国の敵か?
それとも、ガーデット帝国の滅亡を企んでるのか?
どちらでも同じことだが、白状しろ」
彼らしくない低くて恐ろしい声色のイサに、マイは身震いした。
ローアックスは歯をかみしめると、イサをバカにするような笑みを浮かべ、言った。
「ガーデット帝国のおぼっちゃま、か。
国の歴史を何も知らないくせに、ガーデット帝国の王子だと?
よく、堂々と名乗れるものだな」
「それはどういう意味だ。
ガーデット帝国を冒涜(ぼうとく)しているのか?
俺は、幼い頃から国のために、国に関する事は全て学んできた。
当然、歴史上に起きたことも全て、間違いなく言える。
なのに、王子を名乗るのはそんなにおかしいことか?」
イサの気迫におびえることなく、ローアックスはわざとイサの神経を逆(さか)なでした。
「フン。本当に、イサ様は哀(あわ)れなお人だ。
国内有数の剣術師だか何だか知らないが、才能があるからっていい気にならない方がいいぜ。
『おぼっちゃん』」
「ローアックス……。
お前を、ガーデット帝国の反逆者として、この場で処刑する」
冷たい声でイサは言った。
彼が、ローアックスのノドに剣を刺そうとした瞬間、何者かが放った防御魔術がローアックスの身を守った。
ローアックスの体を包むように、一瞬にして透明のシールドが張られている。
「何者だ!?」
イサが空間に呼びかけると、フェルトが現れた。
「イサ。この人を危(あや)めてはいけません」
「危めるんじゃない!
護衛のための最重要任務だ!」
イサは強い瞳でフェルトを見やった。
フェルトは浮かない顔をしつつも明るい口調で、
「その人から、不自然な気の流れを感じます。
私に彼を預からせて下さいませんか?
というか、そうさせていただきます」
目を白黒させるローアックスを横抱きにし、フェルトは姿を消した。
瞬く間の出来事に、イサ達はあっけにとられ、立ち尽くす……。