街はずれに位置する、塔の頂上。
しばらくそこに居たイサとマイは、宿に戻ることにした。
これ以上街中で聞き込みを続けても、新たな情報は得られそうにないし、もうじき日が沈む。
昼間はあれだけ賑やかだった街も、今では人の通りが少ない。
各家庭から、夕食の匂いが漂ってくる。
夕暮れが空のすみに追いやられた道中、イサはサッパリした表情で、
「エーテルの体調が整い次第、次の街へ向かおう。
そこでまた、新しい情報が入るかもしれない」
「そうだね……」
イサの横顔を視線だけで見て、マイはうなずく。
途中、彼女は疑問を口にした。
「イサは、一人っコなの?」
イサは目を丸くした後、穏やかに、
「ああ。たとえ、王妃…母さんが生きてたとしても、下に兄弟は生まれていなかったはずだ。
王家に兄弟はご法度(はっと)だからな」
「ごめんっ。私、無神経なこと……」
亡くなったイサの母親の話。
そこに触れてしまったことを、マイは必死に謝る。
イサは何とも思っていないようで、クスッと笑い、
「気にするな。
そんなに心配ばっかしてたら、疲れるぞ?
王家の後継ぎは、一人に限る。
そうじゃないと、いろいろ大変なんだ。
王子や王女になりえる人間がたくさん居たら、自分の立場を深く考えず無責任になるからな」
「そういうものなんだぁ……」
王族の事情をイマイチ理解できないマイは首をかしげる。
「私は、兄弟や姉妹に憧れるけどなぁ」
そんな風につぶやく無邪気なマイを、イサは神妙な顔で見つめ、
「実は……」
と、口を開きかけたとき――。
地に寝そべったホームレスらしき初老の男が、突然、背後からマイの足首をつかんだ。
「キャアァ!!」
強い力で右足を捕まえられ、マイは悲鳴を上げる。
すっかり油断していたイサはそんな自分に毒づき、男の腕を瞬間でひねりあげ、マイから離れさせた。
「大丈夫か!?」
男からかばうように、イサは自分の背にマイを隠す。
「見ない顔だが、貴様は何者だ?
このコが魔法使いだと知って、近づいたのか?
何が目的だ」
イサは鋭い瞳で、地面でうつぶせに寝ている男をにらんだ。
イサの影に隠れ、マイは小刻みに震えている。