イサとマイが街で聞き込みを行っていた頃。

ベッドの上で横になるエーテルの元に、ルーンティア共和国の人間から通達が届いた。

エーテルの看病で寝不足気味だったテグレンは、隣のベッドで仮眠を取っている。

エーテルはテグレンを見遣った。


ルーンティア共和国の通信は、魔術を通して行われる。

頭の中に通信相手の声が届き、エーテルからも無言で返事を届けられるのだ。

エーテルが使う通信手段は、魔術師同士限定で、脳内でリアルタイムに相手と会話できる。


テグレンを起こさないよう、そっと起き上がるとテラスへ移動し、エーテルは無言で通信を行った。

『エーテル、体は大丈夫か?』

国王の声が、エーテルの頭に響く。

“大丈夫です。助けてくれた人がいるので”

フェルトの顔を思い出しつつ、エーテルは無事を報告した。

『知っているよ。

魔術師·フェルトだね。

彼はとても有名で優秀な魔術師だからね』

“…………私達が異空間に閉じ込められていたせいで、今まで通信ができなかったんですよね?”

『ああ。そうだよ、エーテル。

異空間のことは知っていた。

でも、ワケあって助けることはできなかったんだ。

本当に申し訳ない…。

フェルトには、いつか礼をせねばな』

“そうですね。フェルトさんはとても良い方です”

エーテルは胸を暖かくするが、「ワケあって助けられなかった」という国王の言葉が気になり、穏やかな気持ちは一瞬にして消えた。

異常を知っていて、なぜ助けてくれなかったのだろう。


ルーンティア共和国国王·ケビンは、ためらうような沈黙のあと、

『ガーデット帝国が、怪しい動きをしているとウワサがある……。

密かにその真偽を調査中だ。

ガーデット帝国とは親交を結んでいるし、ヴォルグレイト様のことを疑いたくはないのだが……』

過去を思い出し、エーテルは暗い気持ちで瞳を閉じた。

『エーテル、よく聞きなさい。

もし、私の身に…この国に、何かあった時には……』


エーテルは今、深い決断を迫られていた。

ルーンティア共和国の王位継承者という立場から逃げたくなる。

しかし、自分を育て愛してくれた国のため、大切な両親のため、彼女は父であり国王でもあるケビンの言葉に従った。

“わかりました。必ず……”