イサの表情は、剣術で頼もしく守ってくれる、いつもの彼らしい色へと戻っていく。
イサを励ませたことに、マイは安心した。
そんなマイを見つめイサは言った。
「女の子が苦手な理由は、それだけじゃない」
「え??」
マイはイサを見つめ返す。
「何でもない。忘れて。ははっ……」
軽く笑うことで、イサは話をごまかした。
「そう?」
マイは首をかしげ、しばらく不思議そうにイサを見ていたが、イサは遠くの海を眺めていたので、イサに合わせて景色を見ることにした。
視界を染める草原の緑と町並みはどこまでも綺麗で、普段はりつめているイサの心を和らがせた。
“マイは、俺の初恋の子なんだ。
幼い時、マイが記憶を封印される前から……ずっとずっと、好きだった。
だから、どんな女性とも婚約なんてしたくなかった。
早くマイに会いたいって、願ってたよ。
だから今こうしてマイと顔を合わせることができて、
毎日一緒にいられるだけで、
心から幸せだって言える。
だから、他の子たちに邪魔されたくなかった。
ちょっとだけでいい。
今日だけは、二人の時間を楽しみたかったから……”
マイに向けられた恋心は、イサだけの秘密。
今まで誰にも言ったことはない。
城でもっとも親しくしていたカーティスにさえも……。
日々、城での執務や剣術の修業をこなしながら、心に秘めてきた気持ちだった。
マイ本人に伝える気はない。
マイと気まずくなりたくなかったし、自分は城を……ガーデット帝国を継ぐ人間なのだ。
王子たるもの、私利私欲を簡単に口にしてはいけない。
それが、国の命運を左右してしまうからだ。
叶うことのない片思いだけれど、ずっと好きだった初恋の子と旅できるだけで、イサの胸は喜びに満ちていた。
“マイ。どんな敵が現れても、必ず守ってみせるからな”