何と言っていいのか分からず、マイは黙ってイサを見つめた。

イサはいつもの穏やかさをまとい、

「マイにとって、テグレンは母親のような存在なんだな。

二人を見て、いつも思ってた。

『母親』って、こんなふうにあたたかいものなのかな?って」

「うん。テグレンのおかげで、私はここまで成長できたと思う。

テグレンがいなかったら、食事もろくに作れなかった幼い頃の私は、餓死(がし)してたかもしれない」

もう、身内としか思えないほど、マイはテグレンに深い情があった。

イサはふわっと微笑み、

「よかった。テグレンがいてくれて。

マイをここまで育ててくれたこと……。俺は本当に感謝してる」

「イサ、それ、どういうこと……?」

意味深なイサの言葉に、マイの気持ちは、また、揺れる。

だが、イサはそれ以上マイの話には触れず、

「……俺の母親は、俺が生まれてすぐに亡くなったんだ。

だからかな。カーティスが母親のような感じだった。男だけど」

と、剣術師範·カーティスとの思い出を語った。

カーティスは、剣術に関しては厳しい男だったが、それ以外では穏やかな人間だ。

愛情深く、幼くして母親を亡くしたイサの事を、自分の本当の子供のように可愛がっていた。

カーティスは、会談前で緊張しているイサを励ましたり、剣術の修業に行き詰まって眠れない夜に、温かいミルクを差し入れてくれたりした。

カーティスは、イサの実の父親·ヴォルグレイトよりも、イサのそばにいることが多かったのだ。

立場上、ヴォルグレイトが忙しいのは仕方がなく、イサも幼い頃からそれは理解していた。

寂しさを感じなかったのは、カーティスのおかげといって間違いない。


今回、マイ護衛の任務に就くため国を旅立つ時も、カーティスは目に涙を浮かべてイサを見送ってくれた。

カーティスとイサの絆に、マイの胸は熱くなる。

「ガーデット帝国についたら、私もカーティスさんと話してみたいな」

「ああ。カーティスも、マイに会えるのを楽しみに待っててくれるはずだ」


マイとイサは、カフェで穏やかな時を過ごした。