その日の深夜。

皆が寝静まった頃、イサは宿のテラスに出て周辺を眺めた。

連なるビルの向こうに、街灯に照らされた草原が広がっている。

“フェルトがエーテルを置いて出て行ってからすぐ、あの、いまいましい気の流れが止まった”


まだ本調子でないエーテルを気遣い、イサは二日連続で夜の護衛を勤めている。

異空間に閉じ込められていたことについて彼が考えを巡らせていると、背中にかけていた剣が青い光を放った。

「国からの通達か!?」

護衛の任務に就いて以来、イサはこの剣を使ってガーデット帝国と通信していた。

この剣の握り手に浮かび上がる青い光。

その中に、白い文字が浮かび上がる。

《イサ。私だ。ヴォルグレイトだ。》

“国王からだ……”

イサは食い入るように文面を見つめた。

《お前たちが異空間に閉じ込められていたこと、今まで気がつかなかった。

何もしてやれなくてすまなかった。

引き続き、マイ殿の護衛を頼む。

イサ達が無事に国へ戻ることを、カーティスをはじめ城の者達と共に待っている。

では、道中気をつけるように。》

そうして、通信の文面はぼんやりと消えていった。

“父さん……”

イサは、父·ヴォルグレイトが自分達の身を案じてくれていることに胸をなで下ろした。

“良かった。国は無事みたいだな。

異空間で通達が途切れた理由も、これで明らかになったな”

ずっと抱えていた国への不信感が晴れ、イサはスッキリした気持ちで夜空を見つめた。

ベッド脇に近寄り、マイの寝顔を見つめる。

「絶対にもう、マイを傷つけるような目にあわせたりは、しないから……」

と、つぶやいて……。

この平穏を実感させるように、マイは穏やかな寝顔をしていた。