「何かあった?」

「ううん。何もないよ。ただ採点するのが疲れただけ」


嘘を偽って言った言葉。

採点な訳じゃない。


全てに嫌になって疲れただけ。


「…採点ね。俺がしてやろっか?」


プリントを覗き込もうとする一条くんを遮ろうと、あたしは両手でプリントを塞ぎ顔を下に落とす。


「ダメ、見ちゃダメだから」


…だめ。

本当に見ちゃダメ。


お願い、あたしの顔見ないで。


プリントじゃなくて、あたしの表情を見ないで。


「そんな隠すほどでもねぇじゃん」

「ダメ…だから」


きっと一条くんはプリントの事を思ってる。

だけどあたしは違う。


少しだけ潤んだ瞳の事。


「…って、美咲ちゃん?」


両手を重ねた上に額を乗せる。

その腕を一条くんは軽く揺すってあたしの名前を呼んだ。