「…一条くんだ」
思わず口にした名前に諒ちゃんはあたしに視線を向ける。
「何?あの子の男?」
「いや、違う。…違うけど仲いいの。…ってか、何してんのよ」
…ほんとに、何やってんの!?
こんな人混みの中、ありえないでしょ!!
目の前で暴れてる一条くんは相手の胸倉を掴んで何か怒鳴ってる。
そんな光景をみながら、つい諒ちゃんを見てしまった。
今の一条くん、昔の諒ちゃんと被ってる。
まさしくこの光景、昔に見た記憶がある。
「止めんだったら止めてやるけど」
諒ちゃんはあたしに視線を送ってから目の前の一条くんに視線を移す。
「いや、諒ちゃんはやめて。今、何?仕事中?」
「そうそう。営業行っててな、そんで見掛けたって訳」
「だったら辞めたほうがいいよ」
正直、いらない所を諒ちゃんは発見してしまった。
諒ちゃんが見てなかったら、こんな所にあたしは居ないのに。
でも、それを見てしまった限り、ほっとけないのはこのあたしなんだ――…