「葵、ごめん。行かなくちゃいけない」
「何処に行くの?」
「繁華街。なんかややこしくなってるみたい」
「ややこしくって、芹沢さん?」
「ううん、違う。学校の生徒。だからごめん、行くね」
「う、うん…」
何が何だか分からないと言った感じで葵は混乱の表情を浮かべる。
とりあえずあたしはその場から走って、大通りに出向かい流れゆく車の中からタクシーを拾って、繁華街へと向かった。
あまりいい事がない繁華街。
ここに来ると本当に良くない事ばかりが起こっているような感じがする。
タクシーから降りたあたしは、諒ちゃんが言っていた繁華街の手前まで来て辺りを見渡している時、
「おいっ、美咲!」
どこからともなく聞こえて来た諒ちゃんの声にあたしは後ろを振り向いた。
スーツを着こなした諒ちゃんは仕事中なのか持っていた鞄を脇に挟んで駆け寄って来る。
「諒ちゃん、どこ?」
「そのビルの裏手。俺が入りこんでも意味ねぇしな、お前ソイツの顔見ろよ」
先行く諒ちゃんの後ろを歩き、ビルの角を曲がった時、何これ?とでも言いたいぐらいの人だかり。
怒鳴り合った声が響くその光景を行き行く人達が見ているって感じだった。
あまりの人の多さに、人を掻きわけて目にしたのは、
…――― 一条くんだった。