「…探してたんです」

「え、探してた?…って何を?」

「お父さん…」


思わずその言葉に目を見開いてしまった。


…お父さんって?


「お父さんって、天野さんの…だよね?」

「…はい」

「この変に居るの?」

「両親が離婚してすぐに父は転勤で姿を消しました。それで、たまたまこの前、家に帰った時、聞いちゃったんです」

「聞いたって?」

「男を連れ込んでた母が、その男に繁華街で父を見たって…」

「……」

「ホントかどうかなんて知らないけど…」

「だから天野さん、繁華街にいたの?」

「もしかしたらと思って、探してたんです」

「…そっか」


小さく擦れそうな声で話す天野さんは更にキツク膝を抱える。

その姿が何だかあまりにも切なく見えて、あたしは天野さんから視線を逸らした。


「だから昨日、繁華街で元彼に出会ってしまっ…て、」


次第にすすり泣く天野さんの声。

もう一度視線を送ると天野さんは流した涙を拭ってた。


「…もう、寝よっか」


そう言って、そっと天野さんの頭を撫でる。


過去の自分があるからこそ、大丈夫?怖かったね。…なんて言葉は言えない。


同じような経験があるからこそ、何も曖昧な言葉なんて言えなかった。