夕方になりかけた頃、あたしは葵と別れてマンションの近くのスーパーに向かった。
今までサボってた料理を本気でやろうと思った。
買ってきたばかりの総菜と弁当を口にする翔の姿を見て申し訳なさが募ったから。
心配を掛けた分、これから頑張ろうと思った。
スーパーで食材を買い占めた後、少し重たくなった袋を一つ下げる。
マンションが見えて来て、今から入ろうって時にあたしの足が、ふと止まった。
止まった所為は鞄の中に入っている携帯。
どうも片手では取り出せそうになくて、あたしはマンションの目の前にズラッと並ぶ花壇の石に袋を置いた。
鳴り続ける携帯を取り出すと、そこの現われたのは“公衆電話”。
首を傾げて戸惑い気味にあたしは通話ボタンを押した。
「…はい」
「美咲?」
「えっ、ママ!?」
通話口から聞こえるのはどう聞いてもママの声で、あたしは少し声を上げる。
「ごめんね…」
ちょっと辛そうなその声にあたしは思わず息を飲んだ。
「え…どうしたの?何かあった?」
「今度来る時でいいから通帳持って来てほしいの」
「え?通帳?」
「うん」
「何で?」
「確認しときたい事とか…今のうちに整理したいやつがあってね」
「うん」
「ママのいつもの引き出しに4冊まとめてあるんだけど、それ通帳記入して持って来てほしいの」
「あー…うん、いいけど。明日、行けたらいく」
「うん、ごめんね」
電話を切った後、いまいち何で持って行くのかも分からず、あたしは切った携帯をボンヤリと見てた。