それとなく事件の話も聞いて見たが、そこはさすがに刑事――更に野次馬多数ということもあったが――何も教えてはもらえなかった。
近い人が被害者だったりしなくてよかった。
慌ただしく出てきた言乃には、事件よりもそちらの方が重要である。
ほっと胸を撫で下ろし、ひとまずこの混雑から抜け出すことにした。
「ことのん! よかったいたぁ!」
「はい?」
振り向けば転がるように走ってきた人影。
「探したんだよ! 不吉なメール残して行かないでよね!」
【ごめんなさい】
心配したと怒る彼女。
学部は違えど言乃と同じ星花(せいか)大学に通う同級生にして二年生の舘見恵(たちみ けい)。
茶色かかったショートの髪の毛にカチューシャ。
分けた前髪の間から覗く柔らかくたれた目には眼鏡がかかっている。
自宅で心霊現象に悩まされ、その解決を請いて言乃と知り合った。
その元凶とされた島で共に事件に巻き込まれて以来、言乃の親友となっている。