「あんまり行くと危ないよ」
【貴方といるのとどっちが、です?】
一か八か、強気に出てみれば男は僅かに目を見開いた。
しかしすぐに柔らかい笑みに戻って、
「キミには何もしないよ。安心して?」
何も。本当に。
手の届かない位置から、再度携帯電話を向ける。
【貴方は、一体何者なんですか?】
「イチゴのセールスマンってとこかな」
少し照れたようにイタズラっぽく笑う男性からは、もう嫌な空気は感じられなかった。
本当に、何者だかわかりません。
一切の鳴りを潜めて、普通を装おうこの人は――
「あれ? 屋代さん?」
声に振り向くと、側に高橋が手帳をしまいつつ。
「よくあの人混みを抜けてきたね?」
【いえ、この方が連れてきて下さって】
「どの方?」
「え?」
隣を見れば、そこにはぽっかり1人分の空間。
あの男性の姿は何処にも無かった。