「所轄はおとなしく一課のいうことを聞け」

というストレスから、

「対策課の言うことも聞け」
「素人はこっちの分野に手を出すな」

などの圧力。

それが追加されたとも知らずに日奈山炯斗についての捜査をしようとしたところ、暴力団対策課の連中が手を出すなときたものだ。

頭ごなしに怒鳴られた朋恵の勘忍袋の緒は緩かった。

──あの時、必死で止めなかったら…

そんなことを想像するだけで高橋は胃が痛くなる。

朋恵を羽交い絞めにしてようやく止めて、頭をさげて。
そうして署に戻ってくるなり朋恵は机に突っ伏した。


「どうしてよ、狸ジジイは禅在に乗り込んでも文句は言われなかったのに…」

「それだけ警部のごまかし方が上手いんですよ、きっと」


どちらかというと、朋恵を抑えた疲労で高橋は力ない声を出す。


「暴力団対策課が来るなんて把握してませんでしたから、警部のはタイミングも良かったんでしょうね」


何の気なしに言ったつもりだったが、隣からの鋭い冷気にはっと体を強張らせる高橋。


「あいつのが二枚も三枚も上手だってことね…」


ギリと拳を握る朋恵。
こうしてみると、様々な箇所で父との差を思い知る。
恐ろしい冷気がとりあえず自分に向かないことに安堵すると、高橋は自分の名前を呼ぶ声に顔をあげた。


「はい?」