「……何、今の間」
【いえ、別に】
何でもない。
本当に大したことではありませんが……
今、確かに空気がざわついた。
彼らに、何か思われることでもあるのでしょうか、この方は。
不思議な男性になんとも言えない言乃。
男性はニコリと笑ってテープの向こう側を見た。
「駅前ってことは……きっとアレは金子くんなんだろうね」
「!?」
この人は、一体何を……
言乃は男性を横目で見上げるが、彼は変わらず微笑を称えたまま。
「困ったなぁ…彼は丁度ヤクザだったし、色々と便利だったのに」
じり、と一歩後退る。
はっきりとわかった。
この人、危ない。
体から汗がじわりと滲み出る。
さらに一歩、といくと後ろの人にぶつかって嫌な目でみられる。
「大丈夫?」
よろけた体を男に支えられる。
自分で体勢を整え、男の手を払う。
「やめて下さい」
聞こえないとわかってはいても。
男の笑顔が、禍々しい。