「ありがとうよ谷さん。ひとつ聞くが、あんたの見舞いに来たってのは黒井と綾門ってことでいいのか?」

「あ、ああ…そうだ」


まだ何かあるか、といように身構える谷に川井は少し憐れみを感じていた。

──利用された揚句、来ないといわれていた警察が来て全部話しちゃって…これからこの人だいじょうぶかな

怖がられているというのに、狸翠はまだ続ける。


「綾門が禅在とつながっている節はないか?」

「ああ…」


それなら、安心して谷は顎に手をやる。


「ここ最近は頻繁に連絡をとっていたな」

「それを証明することは?」

「電話の履歴も、仕事メールの内容ならのぞき見るくらいはできるだろう」


狸翠は内心で大きくガッツポーズを決めた。
これで大きな手掛かりがまた増える。
上司の敵になるとわかった上の谷は吹っ切れたように、力強くうなずいた。


「医者に掛け合って早めに退院してくれ。そしたら俺に教えてくれ」

「大丈夫だろう。怪我もかすり傷。検査入院という名目だし、すぐにでも出られるさ」


狸翠は谷に握手の手を差し出したい気分だった。
谷が一人入院していると思われている今、大チャンスだ。

手掛かりに一歩また近づくのを確信しながら、二人は病院を後にした。