惑う谷。もう一度川井が、声をひそめて言う。


「正直なところ、俺たちもこれがばれれば問題になりますけど…後で政治家さんが嘘をついてたってことになれば、周りは大変ですよね。共犯だったら仲良く刑務所に──」

「私はなにもしていないッ!!」


怒鳴り声が過ぎるとともに訪れる沈黙。
肩で大きく息をして、谷は無事な手をがっちりと握り、その手を解くと諦めたようにうなだれた。


「あの日、何か大きなことが起きる。綾門から私はそうとしか言われていなかった。比津次会の連中にめ目に物見せるとか言っていたから、暴力沙汰だという予想はしていたが…」


こみ上げる気を抑えるように再び手が握られる。


「あんな昼間に起きて、私がこんな目に遭うとは思ってもいなかった! 綾門と黒井が少し風にあたるだのと言って外出してすぐだ!」


川井と狸翠は顔を見合わせた。
犯行時刻のアリバイ工作に違いない。

つまり、襲ってきた禅在と確かにつながりがあるということだ。


「おかげで私は怪我を負い、こうして入院することになったんだ! あの二人ときたら、見舞いに来てもこのことについては何も話すな、だ。もう少しくらいなにかける言葉があってもよかったんじゃないのか!」


文句を言い終えた谷はやけにスッキリとした顔をしていた。