「遅い」

「す、すみません!」

朋恵のパートナーは余韻に浸る暇もないようだ。

先にいた刑事たちに挨拶し、壁にもたれて座るようにある仏に手を合わせた。

「被害者は?」

朋恵の質問に、鑑識の一人が立ち上がった。

「金子鉄雄(カネコ テツオ)29歳 解剖してみないと詳しいことはわかりませんが、直接の死因はここの──」

鑑識は金子の襟足の髪を掻き揚げた。
そこには細くとがったもので刺したような穴が。

「──この穴だと思います。こんなとこ空けられたら、イチコロですよ」

すごい言い方するなぁ。
思いながら細かくメモする。
そろそろ新しい手帳…いっそメモ帳を買うか。

「死後硬直から、死亡推定時刻は深夜11時から2時辺りですね。近くの居酒屋のバイトの男が2時過ぎに通報しています。今、機動捜査隊が聞き込み行ってるはずです。地取り捜査は、また警視庁からの連中が到着してからでしょうね」

つまり、今が一番自由に捜査できる時間というわけだ。

「あーあ、所轄ってこういうとき悲しいわよね」

「言わないでくださいよ先輩」

厳しい縦社会に従うしかないのだ。

「犯人の目星は?」

「未だ何も。ただ、そこのゴミ箱が倒れているのと、走り去る人影を見たって話があるらしいですよ。それから…」

鑑識がぐっと声を下げたので、朋恵と高橋も身を乗り出す。
声は落としても、楽しそうに口を開いた。

「厄介になりそうですよ、このヤマ。何せ──」