高橋は車を止めた。

「着きましたよ」

「ん、ご苦労さん」

車を降りる朋恵の顔は既に、ダダをこねる娘の姿ではなくしっかりとした刑事の顔に戻っていた。

こういう切り替えも早いよな…

「高橋? 行くわよ」

「、はい!」

現場である路地にはおなじみの黄色いテープがあり、その奥にはブルーシートが遮って遠目からはシートしか見えない。
野次馬対策ってやつなんだけど、隠されると見たくなるよな。

そのとおりにテープの前には非日常を物珍しげに見つめる好奇の目がたくさん。

「ほんっと邪魔くさいわね…」

仕方ないですって。
文字通り人波を掻き分けて、手帳を提示して中に入る。

はぁ、疲れる。
駅からすぐという現場を一目見ようという集団には舌を巻く。
見えるものや情報など、ニュースを見ていたほうがいくらでも入るというのによくぞここまで来るものだ。

ま、そういう理屈じゃないし、僕が彼らでも来ると思うけど。

高橋にとって、“知りたい”と思う欲は抑えられるものではない。
それは彼の使い込まれてパンパンになった手帳が顕著に示している。

さてと…じゃあ、行きますか。一般人の入ってこれない世界へ


高橋は、ブルーシートに手をかけた。