そんな言乃に、他人と接する楽しさを教えてくれた人。


会話を重ねていく中で、距離は近くなっている気はするのに、彼はどうしても名前を教えてくれようとはしなかった。

呼び方に困るじゃないですか、と愚痴を溢すと彼は苦笑して、


『じゃあお前がアダ名をつけてくれよ』

「では“幽霊さん”で」

『早っ!! いやいや流石に適当過ぎません?』

「仕方ないですね…」


何が仕方ないだおい! と横での突っ込みを受け流しながら、顎に手をやり考える。


とはいっても、この人の好みをそう知ってる訳ではない。

あまり質問すると何も言えなくなる、明らかな隠しごとをする節がある。

どうしましょうか

考える言乃を男は覗き込む。

『無視ですか? 無視なんですかね、中学のお姉さん?』

「ちょっと黙ってて下さい」


ポツリと言ったら効果抜群。
彼は隣でみるみる小さくなっていった。

しばらくたって、言乃は口を開いた。


「ファントム…というのはいかがですか?」

『ファントム? まさかの横文字だな。
うーん…まぁ、いっか』

「意味からすると思い切りさっきの“幽霊さん”なんですけどね」

『おい!!』


それでも、気に入ってくれたようで彼はファントムとなった。

言乃もファントムに、コトと呼ばれることになった。

本名ではないが、一部には変わりない。
名前を教えてくれないファントムに、意趣返しだ。