『お前…人間だっけ。視えるんだな』

「はい」

情報は渡さないように最低限の受け答え。
もちろん、温かいものではない。

そんな言乃に相手の男は唇を尖らせて言乃の言葉を持っている。

『……』

「……」

『……気まずいんだが…』

「そうですか? 私は好きですよ。こういう静かな時間」

『え……そうか』


彼は唇を上下ピッタリくっつけた。

しかしその内に、足を組み直す。
訳もなくポケットを漁る。
息を吐き出す。
キョロキョロするなり、そわそわそわそわ。

ちょっと、どころかかなり鬱陶しい。
言乃は小さく笑った。

「喋らないでって意味じゃないですよ」

『マジか! こういうの堪えられないんだよ。あー、呼吸がしやすい』

息まで止めていたらしかった。
大人そうに見えるのに、そんな忠実に実践するとは意外だった。


『ガキだと思ったろ』

「いいえ」

即答。
しかし彼は明らかに信じていないと示す半目。


『ガキのくせに言ってんじゃねーよ』

「ガキじゃありませんし何も言ってません」


言い返すと、相手の口の端がピクリと上がる。


『何なんだよ』

「中学三年生です」

『そういうこっちゃねえよ!』

「じゃあ何ですか」


ぐっと二人は言葉なく睨み合うと、中間でバチバチと光が散る。

相手は男。
オマケに明らかに一般人ではないのだが、一歩も引かないつもりだった。




――それが、彼との出会いだった――