『座んねぇの?』

ああ、声を掛けられてしまった。
前髪の一部を金髪に染め、カチューチャで上げているような、あまり関わりたくない人間――いや、幽霊に。


礼儀正しく振り向いて首を振ると、相手は驚いたように眉を上げた。

『オレのこと…見えてる?』

頷く。するとパッと表情を明るくすると、自分の隣を叩いた。

『マジか! 座れよ、ちょうど退屈してたんだ!』

言乃は首を横に振る。

「私が座ると、立てなくなってしまいます」


何せそのベンチはペンキ塗り立てだ。

『あ? あ、塗りたてか。悪かったな。ってお前人間!?』

今さらびっくりと仰け反った。

「はい。あの…こうして立っていると私が変な人なので、移動しませんか?」

『おう!』


彼は、何だかやたらと嬉しそうに見えた。




ところ変わって、公園の生垣の低い柵に二人は腰掛けた。

『いやぁ…良かったぜ。一人は寂しいし、家には帰れないしでつまんねーもんでさ。誰か話相手がいないかと思ったんだよ』

「そうですか」


気さくな霊である。
しかし、人を求めここへ来たということは、無意識にも力のある場所へ導かれたのだろう。

そういう輩には、簡単に心を許してはいけないと教えられている。