名前なんて言うんだろう?

知りたくて、私は頑張って隣の子の名札を見ようとした。
すると、それに気がついたらしいその子は
ニコっと笑って、

「俺、東郷ヒロ。ヒロでいいから、よろしく。」

あまりにもあっさり挨拶するものだから
私は戸惑ってしまった。

始業式は授業がないので
私はゆっくり帰ることにした。


お帰り道は、空が透き通っていてすごく綺麗だった。
道路の端にはコンクリートの隙間から
一生懸命花を咲かせようとするタンポポがすごく、
自分達なんかより立派に見えた。

私もいつかあのタンポポのように誰かに立派だと、
綺麗だと、自分もこうなりたい、
と思ってもらえる人間になれるのだろうか・・・


そんな事を考えながらゆっくり一歩づつ家に帰った。

小さい時は、笑いがたえない誰から見ても暖かい家だったこの場所は
いつから誰も笑わない場所になったのだろうか。

あの頃はドアの前に立つだけで中の賑やかな声が聞こえた。
『ただいま。』
そう言うと暖かい家族の声が帰ってきた。

今は、

ドアを開けても・・・
真っ暗だ。
もう慣れたけど、
時々寂しくなる。
暖かい家族が羨ましくなる。

寂しい夜は必ず星を見てから寝るようにした。
誰かが私を見守っていてくれるような気がしたから。