[凛李愛 side]

「凛李愛ちゃん、おはよー」

「おはよー」

「今日も可愛いね!」

「当然!」



桜妃学園に入学して3日目…


あたしの周りにはいつも男女問わず人が集まってくる。


あたしが未月財閥の長女だから?

みんなお金目当て?


「凛李愛ちゃん見てるだけで癒される〜」

「目の保養だよ〜」


…そうでもなさそう。



「「「キャーーー!!篠宮君よ!!!」」」


…奴の周りにもいつも人が集まる。

女子限定だけど。


篠宮 莉央の席にはたくさんの女子が集まってあたしからは奴が見えない。


「ねぇ琉生、あんな奴のどこがいいと思う?」

「ん?篠宮のこと?」

「うん」

「やっぱ…顔じゃない?」

「顔はいいけど中身は最悪な奴なのよ!?」

「凛李愛…まだキスのこと引きずってんの?」

「ッ、だってあたしのファーストキスをッ!」


「ファーストキスだったんだ」


…ッ!?


「篠宮 莉央!!」


いつの間にか篠宮 莉央があたしの後ろに立ってた。


「…それ、やめてくんない?」

「…?」

「フルネームで呼ぶの」

「は?」

「莉央でいいから」

「なッ!?そんな…ッ!呼ぶ訳ないでしょ!!馴れ慣れしいッ!!!」

「はッ…気の強いお嬢様」

「うっさい!黙れ!!」


こいつは…なんであたしにこんな態度なのよ!?

何様のつもり!?

あたしが莉央なんて呼ぶ訳ないでしょ!!


「なぁ凛李愛…」

「…何?……って、あんた今ッ!!」

「あ?」

「あたしのこと…っ!」

「凛李愛?」

「ッ!呼び捨てにすんなぁぁぁ!!!」

「は?じゃあ"凛李愛様"とか"凛李愛お嬢様"って呼べば満足?(笑)」


ふ・ざ・け・ん・な

その"(笑)"ってなんなのよ…!!


「あんたって奴は…ッ!ほんっとムカつく!」

「そっか…ファーストキス奪って悪かったな?(笑)」


…こいつ、殺っていいわよね?


「でもファーストキスが俺でよかったじゃん?」

「はぁッ!?何を言ってんのよあんたは!!」


よかった訳ないでしょ!!


ファーストキスの相手がこんな最低野郎なんて!


「普通なら俺にキスされたら喜ぶけど…あ、凛李愛普通じゃないのか」


…殺ッ!!!


「あんたほんとなんなの!?」

「どうだった?初めてのキスは」

「なッ!?ど、どうだったって…」


あの時は一瞬のことで何が起こったのかよくわかんなくて…

でも確かに唇に何かが触れた気がして…

"何か"…

それはこいつの唇で…


あたしは…

ほんとにこいつとキス、したんだ…


篠宮 莉央をじっと見つめる。


やっぱり顔だけはいいんだな…

いい感じにセットされてある少し明るめの茶髪。

身長は…180㎝は超えてて。

制服は着崩してて。

耳にピアスの穴開いてる…

形の整った薄らとピンク色の唇。

ちょっとだけ長い前髪の間から見える目は大きくてまつ毛が長い。

瞳は茶色く吸い込まれそうな程綺麗で…


中身がよかったら完璧なのに…


「何?見とれてんの?」

「へ?あ、ちッ、違うからッ!あんたなんかに見とれる訳ないでしょ!!」


あたしとしたことが…

こんな奴に見とれてどうすんのよ!!


「素直になれよ…」

「あたしは十分素直ですけどー?」

「顔は可愛いのに…」


…はい?

今"可愛い"って…?



ぼぼッ///



一瞬で顔が赤くなるのが自分でもわかった。


「は?何その反応…可愛いなんて言われ慣れてるだろ」

「慣れてる!!」

「じゃあなんで赤くなるんだよ」

「ねっ、熱があるの!!」


かなり苦しい言い訳…


「ふーん…」

「…え?」


次の瞬間、篠宮 莉央の顔が近づいてきて…


何!?

キスされる!?


反射的に瞑った目。



コツンッ…



…?


「…ちょっと熱いかも」


目を開くと篠宮 莉央のドアップ。


「…ッ///」


篠宮 莉央はあたしのおでこに自分のを合わせていた…


ふと視線が合う。


ヤバい…

美形すぎる…///


「さっきより赤くなってるけど…?」

「だ、大丈夫だから!早く離れて!!」


そう言ったのに奴は離れなくて…


「顔赤くなったのってさ…俺のせい?」

「違う!!」

「さっきキスすると思った?」

「お、思ってない!!!」


なんなのこいつ…

なんであたしの心が読めてる訳!?

エスパー!?


…あれ?

ふと感じた視線。


「ッ!!」


見られてる…

あたし達を囲むようにクラスの男女が…!

しかも違うクラスの子たちもいる…


もう嫌ッ!!


「いい加減離れなさいよ!」


あたしは奴を押して離れようとしたけど…


「…まだ離してやんない」


奴はあたしの腰を引き寄せて…



ぎゅッ…



抱きしめやがった…

こんなたくさんの人が見てる中で…


こいつ周り見えてる?


ざわつき出す教室内。

男女とも"羨ましい"とでも言いたそうな顔。

誰1人冷たい視線を送る人はいない。

さっきまで篠宮 莉央の席に集っていた女子たちも僻んでいる様子はない。


まぁ当たり前ね…

だってあたしより可愛い子なんて存在しないんだから。

僻むことなんてできないでしょ。

あたしがこうして抱き締められていても"お似合い"としか言いようがないから。


…って、こんなこと考えてる場合じゃない!!


「やめてよ!あたしにこんなことして許されるとでも思ってるの!?」

「んなこと知らねーよ」


…まじムカつく。


「いいから離して!!」


再び篠宮 莉央を押し返そうとした時…


「なーんか朝から騒がしいねぇ」


ドアに寄り掛かった1人の男子が呟いた。


…誰?

てかあんな奴いたっけ?


「…カナ?」

「おぉ、莉央〜」


篠宮 莉央が言った"カナ"…

カナ?


ドアに寄り掛かっていた男子は笑顔で近づいてきた。

それと同時に篠宮 莉央があたしを離す。

こいつ…なんなんだ。


再び教室内がざわつく。


「中学の卒業式ぶり〜」

「…そうだっけ?」

「そうだよー」


話し出した2人。


…誰なの?


「あ、もしかして君が未月 凛李愛ちゃん?」

「え?あぁ、そうだけど?」


急に話振らないでよ…


「やっぱり!はじめまして、松島 奏汰です♪」


松島 奏汰(マツシマ カナタ)…


「あ!あたしの前の席の!」

「ん?あぁ俺凛李愛ちゃんの前の席みたいだね」


席は名簿順。

だからあたしの前はこいつ、松島 奏汰になる。


「確かインフルエンザで入学式から来てない…」

「そうなんだよー、入学式の3日前にかかっちゃってさー、ほんとついてないわー」


それはドンマイね…


「これからよろしくね、凛李愛ちゃん♪」

「え、えぇ…」


テンション高い奴…


松島 奏汰はチャラチャラしてて軽そうに見えるけどまぁまぁイケメン。

篠宮 莉央の親友らしい。


あ、奏汰だからカナなのね…

うん、納得。