「市!ご苦労であった!!
 よくぞ、無事で…!!
 おお、おお。そなたの横に
 寝ておるのが、姫か!
 なんと…愛らしい!
 市、改めて礼を申す。
 このように可愛い姫を
 産んでくれたこと、
 まことありがたく思う!」

長政が、顔をほころばせ、そう言うと

「殿。もったいなきお言葉、
 ありがとう存じまする。
 ですが、浅井の跡継ぎとなる
 男子をお産みできませなんだこと、
 まことに申し訳もございませぬ。」

市は、居ずまいをただし、
申し訳なさそうに、長政に
頭を下げた。
長政は、市の肩に手を置き、
頭をあげるように促し、
「そのようなこと、気にするでない。
 市、そなたと姫が無事ならば、
 それで良いのじゃ。
 それに見てみよ。姫の顔を。
 生まれたばかりであるのに、
 かように美しく可愛い姫は、
 はじめてみたぞ。」と笑った。

嬉しそうな長政の笑顔を見て、
お市もはじめて笑顔を見せた。
 「まこと、わが子ながら、
  美しき姫にございます。
  殿、姫の名を考えて下さりませ。」
愛おしそうにわが子を見つめる長政に、
お市も、嬉しそうに優しく微笑み、
長政に、姫の名をつけてほしいと頼んだ。

「あ、ああ。そうであった。
 名をつけねばな。
 この子にふさわしき、
 良き名を考える故、
 市も姫も、楽しみにするとよい!」

しばらくして…。

「茶々…!茶々はどうじゃ!?
 姫の名は、茶々とする!
 お市、良いか?」
長政が、半紙に茶々と書き、
お市に見せる。

「良き名と存じまする。
 姫、そなたはの名は、茶々じゃ。
 良き名を頂いたこと、父様に
 感謝せねばなるまいぞ?」

腕の中で、すやすや眠るわが子に、
笑顔で、名前を教える。