「よぉ、葵。久しぶりだな。元気か?」
…弥七だった。
夜中に、しかもどうやら敵同士になってしまっているというのに
弥七は満面の笑みを浮かべ、明るく挨拶をしてくる。
変過ぎる。
弥七を睨みつけたまま固まった京華(葵)をよそに
後ろに隠れていた二人の少女たちにも声をかける弥七。
弥七「こんばんは。俺、弥七ってんだ。あおい…いや 京華の幼なじみでよ。君らは 確か、楓ちゃんと椿ちゃんだよね…?知ってるよ。」
葵と同じく、疑わしげな目を弥七に向けたまま、軽く会釈する楓たち。
葵「弥七、あんた… 何しに来たんや?」
吉原を出て一年半が過ぎ
葵は京華と名を変え、一生懸命祇園で舞妓を勤めてきた。
忍びとしての自分も、花魅としての自分もやめて
自分は祇園で生きるのだと決めていた。
なのに…
それなのに…。
何故?
昔の仲間に、『今』を奪われた京華は何とも言えない気持ちに襲われていた。
弥七「…任務だ。お前を消すようにと、里長に指示されている。」
…………やはりそうか。
しばしの沈黙が
更に葵を追い詰める。
弥七と葵は、里で生活をする上で、一番の親友だった。
毎日一緒にいた。
だから言わずとも互いの気持ちは理解出来る… はずだったのだが。
今は違うというわけか。
弥七とやり合う気にはなれないが 仕方あるまい…。
葵が苦無を構え直すと
弥七もまた同じように
戦闘体制に入った。
葵(ッ!?あの構え方…。弥七のやつ、鎖鎌か…。まずいな。)
葵にはすぐ分かった。
一見、普通の人が見れば
ただ片手で鎌を構えているだけなのだが、
元・忍者の葵が見れば一目瞭然。
鎌を持つ左手の小指と薬指が不自然に膨らみ
添えている右手も、強く握った状態になっている…。鎖を手に隠している証拠だ。
ちなみに、くさり鎌と苦無が戦った場合、苦無の勝率はたったの二割。
しかも弥七は甲賀一番の鎌の名手だ。
このままでは葵に勝ち目がない。
さてどうする…?