置屋の二階には、楓と椿が残っていた。


スヤスヤと 幸せそうな寝息を立てている。



堺に出掛けているお母さんは一週間後まで帰って来ない。


京華(今はとりあえずこの子達を助けないと…)


どこに潜んでいるやもしれぬ忍び達を警戒しつつ小さな声で、しかし、はっきりした言葉で 京華が二人に声をかける。


京華「椿、楓、起きて!!逃げるよ!!」


…しばしの沈黙の後

「んん〜。京華姐さん…?まだねむいょぉ…」


うっすらと目を開けてそう呟いたのは楓。

続けて椿もぼんやりと目を開けた。

椿「京華さん姐さん…?どないしはりましたん?」



京華「よかった…。悪いけど事情は後や。とりあえず、起きて何か羽織って。外出なあかんから。」


楓と椿「…??」

寝ぼけ眼の少女二人に意味が分かるはずはない。

明らかに「何が?」という顔をしている。


が 事は急を要する。

仕方が無いので

ひとまず京華が、近くにあった二枚の羽織りを二人の肩にかけてやり

無理矢理引っ張るような感じで手を繋いだ。




隣の部屋は京華と小春の部屋だったから

ついでに自分の持ち物も、必要なだけ風呂敷に包み

両手が塞がる自分に代わって 椿の空いた手にそれを持たせた。




たいして重い物は入っていないが

最低限の薬草と金、
いざという時のためにまきびしと、毒の付いた手裏剣が数枚中に入っている。




最後に、箪笥の一番奥から取り出した愛用の苦無を帯に挟むと

これで準備は万端だ。





周囲の気配に細心の注意を払いながら なるべく音を立てないよう ゆ〜っくりと階段を下る。



そして、無事に一階へはたどり着いた



のだが!!


…ふと玄関の前を通る、一人分の人影。



楓達の口に手を当て、更に注意深く耳をそばだてるが


どうやら、本当に一人だけのようである。



何が起きているのかと首を傾げて見上げてる椿と楓の手を、そっと両手から外す。


代わりに椿と楓同士で手を握らせた。


離れずに後をついて来るよう、身振り手振りで指示を出し


大きく深呼吸をした京華は

苦無を隠し持って構えた。

ゆっくりと玄関に近づいてゆく京華。



ガラガラガラ。


玄関の引き戸を開けると

そこには……