丑の刻下がり。
小春をはじめ、舞妓たちのお陰で充分過ぎるくらいに酔っ払った客が
ようやっと、ふらふらした足取りで襖に近づく。
お客「今日はも〜あれやな。わてはな〜かえるんや〜で〜。ははは〜。」
小春「はいはい。帰らはりますのやろ?廊下はこっちどっせ?しっかり歩きなはれや、みっともないな〜。」
酔っ払って出口すら間違えてしまうだらしのない客に、いつものように冗談まじりの厭味を言いつつ
小春が廊下へと続く襖に手をかける。
と、その時!!
…グサッ。
…ドサリ。
突如目の前に現れた黒ずくめの集団。
危機を察した京華が、一瞬にして胸の懐剣(小刀)を抜いたが
彼女の手が小刀に触れるか触れないかというギリギリのところで、間に合わなかった…。
三人の人間は、一気に亡くなった。
小春さん姐さんと京子さん姐さん、そして座敷のお客。
あまりにも呆気ない死に方だった。
悲しいとか
悔しいとか
やり切れないとか
そんな感情を持つ間すらなかった。
さっきまで隣で笑ってた人達が、ほんの一瞬で倒れた。
死んだ…のか?
実感は湧かない。
しかし、京華の身体は勝手に動いていた。
黒い装束を着た、かつての仲間たちが襲ってくる。
裏切られたのか
裏切っているのか
それすらも分からぬまま
京華はただ、京の夜を、切るように走った。