−その頃。
甲賀では、里の皆が集まり、毎月恒例の村人会議を行っていた。
集落の外れにある、小高い丘の上。
里長を中心に、各家の代表が円を描いて座っている。
議題は主に、村の者それぞれが今行っている隠密活動についての把握と報告、及び里の運営についてだ。
里長「……ところで弥七よ、今、葵の様子はどうじゃな?」
会議の終盤 里長がさりげなく、祇園で働く『京華』ことクノイチの『葵』について話を持ち出した。
弥七は、葵が祇園に移ってからも ずっと様子を見守っているのだ。
葵には祇園に来てから今のところ、忍びの仕事はなく、
それに伴い弥七も、お上との密通仕事からは一旦手を引いたが
「まだ若いから心配だ。」という里長から指示を受け、今は甲賀と祇園を行き来しつつ、葵の様子を監察している。
しかし…
報告は「何か大きな変化があった時に」とだけ命じられていたため、
里長のほうから弥七に様子を聞いてくるのは妙だ。
(これは何かある…)
嫌な予感がした。
(葵が危ない…)
何故かそんな思いが頭をよぎり、黙り込んでしまった弥七。
そんな思いを知ってか知らずか
里長は何も言わない弥七に向かって
ゆっくりと口を開いた…