女将「ほなとりあえず、今からは、あんた等がこれからやる仕事についての話をするで、長うなるかもしらんけど、よう聞いとっておくれやす。」
桜太夫/楓/椿
「はい!!」
三人とも、自然と背筋が延びる。
女将「まずは楓ちゃんと椿ちゃんや。あんたら今、歳はいくつや?…あ、『ありんす』は『どす』に変えるようにな。」
楓「はい。おいらは11歳どす。」
女将「ちょっと待った。あんた自分を『おいら』言うとったんか…そうか。そらあかん。『うち』にしてくれるか? 言い直し。」
楓が言い直す。
楓「はい。うちは11歳どす。」
女将「よし。えぇ子やな。椿ちゃんはどないや?」
椿「はい。うちは今、10歳になります。」
女将「そうかぁ。分かった。おおきにえ。ほしたらせやなぁ… 二人には仕込みの仕事から始めてもらいまひょか。詳しいことは後で教えるから、ちょっと待っといてな。」
楓/椿
「はい、お母さん。」
女将「偉い偉い♪」
女将「さて、んで?桜太夫はん、あんたはいくつでっかいな?」
桜太夫「うちは17歳どす。」
17歳と聞くと、女将は少々面食らったようだが話を続けた。
女将「あれまぁ…。そないに若いんどすか?わてはてっきり芸者の歳になってはるとばかり思てましたんやわ。 せやけどまぁ…それやったら舞妓からになるな。」
桜太夫「舞妓…ですか?」
女将「せやで。花の舞妓や。太夫ほどの位はないけどな、一番綺麗な着物を着る時期やわ。」
桜太夫「そう…なんどすか。」
まだまだ分からないことだらけの桜太夫。
ぼんやりした返事しか出来ないのは致し方ない。
女将「桜太夫、そうなるとあんさんは、今すぐとはいかんけど、芸者になるわけやから、わてが名前を考えたらなあかんのやや。せやから…ちょっとの間お待ちやす。」
そう言って女将は一旦席を外した。
…沈黙。
桜太夫も楓も椿も
頭の中を整理するべく
女将が帰ってくるまでの数分間、自由になってはいるものの、ずっと黙って固まっていた。