体育の授業が終わり、着替えるのを省いて裏庭に向かう。
アタシ、――篠原翠(シノハラ ミドリ)――は、
髪も耳まで掛からないくらいに短いし、運動にも自信があるし、
制服は似合わないし、女の子らしいモノが嫌い、そういう、男っぽいヤツだ。
体育のある日は大抵ジャージだし、
クラスの女の子がよく話している、最近の「ジャニーズ」とかも、
正直さっぱり。
男子と野球とかサッカーの試合の話をしていた方が
よっぽど楽しいと感じる。
そんなアタシの、唯一の楽しみは休み時間、
裏庭にチョコンと置いてある、人目のつかないベンチで一人寛ぐこと。
今日もお気に入りのベンチに行こうとしたときのことだった。
その日は珍しく、先客がいた。
アタシ以外に、休み時間にあのベンチに来る人がいたのか、と知る。
でもそこにいる彼女は、どこか悩みでもありそうな雰囲気で、どよーんと蹲っていた。
だから、つい、話し掛けた。
こちらに向いたその顔には見覚えがあった。
入学式の日、隣のクラスの名簿で見つけた「新垣七虹」の字。
「七虹」なんて珍しい名前だと思った。
なんて読むかも分からなかったけど、とにかく印象強くて。
あとから「ナナコ」だって知って、
顔を見てみたい。と思ってた。
どうせ、アタシの真逆、女の子らしいふわふわした子なんだろうと予想して。
けど、実際は違った。
ふわふわは、してる。だけど、アタシの嫌いなふわふわじゃなくて、
上手く表現は出来ないけれど、
可愛いものが嫌いなアタシでも、素直に可愛らしいと思える子だった。
また会おうと約束して、その場を去った。
そんな時に、
聞いてしまった、男子たちの会話。