俺、――飯塚祐大(イイツカユウタ)――が
新垣に惚れたのは、ほんの少しのきっかけで。
高校入学の時、彼女に一目ぼれした。
恋愛漫画に出てきそうな光景だった。
学校の目だたない中庭に、きれいに咲く桜。
きれいだが、中庭なためか、誰も寄り付かない場所に咲いていた。
そんな桜を、
彼女は見ていた。
一人、何か思いながら見てた。その姿に
一目惚れだった。
俺が来たことに気が付くと、彼女は小さく笑い、
その笑みをこちらに向けて、
「きれいなのに、可哀想だよ、ね。」
そうつぶやいた。
優しげで、でもどこか切なげな表情だった。
満面の、楽しそうな笑顔を見てみたい、そう思った。
「新垣ってさ…
あんまり男と仲良くしてるの見たことないな。」
「…そう?
あんまり、機会がないからね…。
飯塚くんだけだよ。私に気軽に話し掛けてくれるの。」
「えへへ」なんて笑う新垣。
嬉しくて、俺の頬まで緩んだ。
「モテそうなのに。…彼氏とかいないの?」
「彼氏…?!いないよぉ」
無邪気だった。
こんな新垣を見たのは、初めてだ。
「あのさー、新垣。
そろそろ、俺の事……飯塚君って呼ぶのやめろよ?」
「え……?
あー…うん。ゴメン。祐大君…?」
「…う、ん。そう。
新垣は、七虹、だよな…?」
「うん。そーだよ。」
少し名前を呼ばれただけなのに、
俺の頬はすぐに熱を持った。
いつもより、七虹との距離が近い。
たまに二人とも持つ荷物が当たって、
「ごめん」なんて笑って。
すごく、楽しい時間だった。
「ありがとー、祐大くん。助かったぁ」
「あぁ。いつでも頼れよ。
七虹が困ってるときはすっ飛んでくるからさ!」
「えへへー。ありがと。」
……可愛い。
そんな言葉だけが似合うような姿が、
とても愛おしかった。
バイバイ、と手を振る、七虹。
名残惜しい。
そう思った。