「あ、翠じゃんー。どこ行ってたんだよ。」
「あー。ちょっと中庭に、な。
で、何の話してたの?」
ずい、と遠慮なく男子たちの輪に身を乗り出した。
男子も、気軽にその時の会話の内容を、アタシに教えてくれる。
「コイツがさー、隣のクラスの新垣って子に告ったんだってよ。」
「新垣?……それって、新垣七虹?」
「そうそう。その子。」
コイツと言われ指さされていた奴は、
さっき、その張本人と話していた「浅野」だった。
浅野はアタシと同じクラスで、結構親しい。
よくこうやって話す。
「ふーん。いいんじゃね?あの子可愛いし。」
「わかる。なんか天然っぽくて、俺もスキ。」
チラホラと「可愛いよな」なんて言い出した男子達に、浅野は
とんでもないことを、言った。
「可愛いけどさー。俺はタイプじゃないな。
俺はやっぱD組の綾野さん。」
堂々とモテ女子の名を挙げた浅野。
七虹に告白した、張本人なハズなのに。
「何ソレ?どういうこと?浅野は七虹が好きなんじゃなかったの?」
眉を寄せて聞いてみた。
浅野の言ってることは、矛盾している。
「好きなわけ、ないじゃん。
ただ、あぁいう、影で仕事とかなんでもテキパキやってる地味な子と付き合ってたら、
俺の印象も上がりそうじゃん。印象上げのためだよ。
地味子はタイプじゃないし。それに、あぁいう子なら簡単に告白OKされそうだし?」
「うっわ~。浅野の鬼ぃ!!」
ケラケラと笑いだす男子たちの中で、
アタシはただ一人、笑えずに、別の感情を抱き始めていた。