――新垣七虹
多分、夢だと思った。
信じられない。そう思った。
ベタにほっぺたを抓って見たけど、
鈍い痛みが現実を知らせるだけだった。
何かの、間違えだろうか?
「ただいまー」
新品の靴を丁寧に脱いで、帰宅すると、
リビングから、私に笑顔を向けて、ママが顔を出した。
「おかえり、ナナ。遅かったんじゃない?」
「ごめん。バス乗り遅れちゃって…。」
「まぁ。珍しいわね、ナナがそんな間違えするなんて。ふふ。」
少し嬉しそうにも見えるその笑顔のまま、
顔を引っ込めた。
それを見送って、私は足を2階の、自分の部屋へ向かわせた。