「お預かりします」
「よろしくね」
宝物でも見つけたようなきらきらした瞳をしながら大事に大事にそれをバッグの中へとしまう彼女。
熊谷さんはちらりとカップを見ると結構な量が入っていることに笑みを作る。
「(まだ時間あるしなー)」
何かを話題をと考えながら一口、ブラックのコーヒーを口にして眉を潜めた。
高いヒールのブーツに暖かそうなファーが付いたコートを身につけているのは、視線の先の女性。
幸い彼女からは死角になっているから見えてはないことを確認すると熊谷さんは素早く、熱いコーヒーを流し込んだ。
「今日はこれだけだから、暗くなる前に行こっか」
「…あ、はい」
ゆっくりとした時間の流れの中、珍しく急ぎを顔に滲ませる熊谷さんが何故だか焦りぎみに席を立つ。
どうしたんだろうと思いつつも連なるように彼女もマフラーを巻くため腰を上げようとした、その時。小さな舌打ちの音が聞こえ顔を上げた。
「…熊谷さん、ですよね?」
綺麗に巻かれた髪を揺らしながら人当たりの良さそうな笑顔を浮かべる女性が、すぐ側にいた。
「(小音ちゃん、ごめん)」
熊谷さんは僅かに眉に皺を作ると不自然な、大人な笑顔を作った。