昨日・午後4時頃
違う仕事に行った彼の代わりに熊谷さんに頼まれ外にでた彼女は会社近くのカフェでひとり、コーヒーを飲んでいた。
10分前に来たのに関わらずすぐに熊谷さんが表れたので予定より早く帰れそうだとひっそり、スーパーで買うものを考えてみた。
「ごめんね小音ちゃん、寒い中外に出させちゃって」
「いえ、用事もないですし」
「そ?敬が何か言いそうだけどね」
「……そうですね」
熊谷さんと会うと先ほどメールしたが返信は来ず。仕事中だからいいものの、返ってくる内容は大体想像がつく。
「敬は大好きだからねー。小音ちゃんが」
「…………」
湯気が渦を巻くカップを外から来たばかりの冷えた指先を暖めるようにして両手で抱える熊谷さんはくすりと笑う。
「小音ちゃんも、だけどね」
彼女の左手に輝く、センスの良いそれをちらりと視線の端に映して優しげな大人を漂わせる笑みを浮かべる。
「(本当に、愛し合ってるんだー)」
「……なんですか?」
「なんでも。ああ、そうだ。これ渡しに来たんだった」
革張りの、重そうな鞄のなかから新品のそれを取りだしそっとテーブルの上に乗せた。
「これって敬さんの…?」
「そう、試作本出来たから渡しておいてね」
「……はい」
綺麗な表紙の厚めな本を受け取った彼女は後で読ませてもらおうと思いながら愛しげに指先を滑らせる。