―――暫くして、気まずそうに身体を小さくしながらそっとラグの端に座った彼女。マグカップを両手で抱える姿は庇護欲を誘う。



「コト、こっちおいで」

「…………はい」



ごくごく小さな声で返事をしてみせた彼女は彼が座っているソファーの対極のさらに端に腰を下ろした。



「(喧嘩うってんのかな…)」



真面目にそう思えるほどあからさますぎる表現方法である。彼女の呼吸、一つ一つ見落とさないように表情を伺う。


緊張気味に、唇が少し震えている。



「………コト」

「……はい」

「昨日、何かあった?」

「…………」

「あったんだね。…話せないことなの?」



対極にいる、彼女の髪に、手を伸ばすと。びくり、肩が震えるからつい引き寄せた。胸のなかには強引に引き入れたのだ。



「話せよ……拒絶、すんな」

「…………」

「コト、言いたくないの…言えないの…?」



彼の中で不安が着々と大きく膨らみ胸の奥が少し、絞まる。彼女の手の内にあったままのマグカップがゆっくりとサイドテーブルにずらされるとなぜか心臓が跳ねた。


それと同時に、ずっと下を向き拒否反応を見せていた彼女がゆっくり顔を上げて視線を合わせた。そしてぽつり、呟いた。



「…誰ですか」

「え……なに」

「川崎さんって…誰ですか」



川崎さん、川崎さん。今にも泣き出してしまいそうなそれに、彼は全力で焦っていた。