冬の日が差し込む真昼のリビングに彼女の姿はなく、かわりに揺れるカーテンが示すその先には華奢な背中が動くバルコニー。


そっと白猫を絨毯の上に下ろすとバルコニーの側に寄ると外の世界を伺うように小さな顔だけ出している。その姿はまるで人見知りな彼女のようだ。



その存在に気づいた彼女が振り返り、ふわりと微笑みを見せる。そしてすぐにもう1つの視線に気付くと。



「敬さん、……いつから」



驚いたような、焦ったようなそんな感情が見え隠れする仕草で必死に冷静を取り繕うとしているようだ。


しかし、こうもあからさまに態度に表されてはいい気はしない。つい、言葉に棘が含まれる。


「今だよ。何、都合でも悪いの?」

「そうゆうわけじゃ…」

「よそよそしいね、何か隠事でもあんの?」

「…………」

「……ごめん、キツく言い過ぎた。こっちに来てくれる?話したい」

「…はい。終わったら、行きます」



見透かすような強い視線に耐えられなくなったのか、彼女が逸らす。そのことにさえ苛つきを覚えてしまうあたり彼もまた不安を感じているのだ。



背を向けて再び服に手をかけ始めた彼女の髪を、早く撫でて愛でたい。愛していると、伝えたい。



「じゃあ、待ってるね」



ため息が出そうなのをぐっと抑えつつ踵を返した彼はすぐ側のソファーに寄りかかるとレース越しに見える彼女を見つめる。



「(……喧嘩って、嫌だな)」