「いや、あの……嘘じゃないです。けど、嘘です!」
「どっちだよ。本当にお前は……」
主任が力を抜くようにため息を吐いた。
こんな時にまでため息を吐かすなんて……ホント私、ダメな奴。
「どっちでもいいじゃないですか……主任は南さんを好きなんでしょ? だったら私の気持ちなんて気にしなくていいじゃないですか!」
ダメだってわかってるのに。言っちゃいけないことを言ってしまう。
羞恥と焦りで、頭の中がカーッとなっている。
「俺がいつ、南さんを好きだと言った」
ノンフレームの眼鏡が街灯にギラリと光った。真顔の主任が怖い。今は呆れているんじゃなくて、たぶん怒ってる。
「だ、だって……さっき、すごく楽しそうに会話してたので……」
認めたくない事実に、唇が震えて上手く言えない。
「大人なんだから、相手に合わせて会話をするし、誘われたら社交辞令を返すよ」
「あ、社交辞令……」
思わず納得して頷いてしまう。
「簡単だな、お前を説得するのは」
主任が人を小馬鹿にしたようにクスッと笑った。
ついに笑われてしまった。
愕然としながらも、南さんを好きなわけではないとわかり、胸を撫で下ろす。
「で、でも……私のこと嫌いなのには変わりないですよね」
「どうしてそう思う」
「いつも私ばかり怒るし、飲み会の時は一度も私の方を見てくれなかった。ビール注ごうとしても、無視するし」
「なんだ、そんなことか」
主任が息を吐きながら、中指で眼鏡を押し上げた。
頬が赤く見えるのは、街灯のせいだろうか、それとも……。